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マトリョーシカ
直径一〇メートルの銀色の球体が四足の架台に乗っている。形状は世界初の人工衛星スプートニク号に似ていなくもない。マリューチン社長は意識してそうデザインしたと言い張っているが、真偽のほどは定かではない。
表面はおろしたての鍋のようなメタリックな質感で、内部は二重構造になっている。特殊金属製の殻の内側に、別の素材で作られた五〇〇立米の球体がある。
マトリョーシカ人形のように、その中にまた無限に球体が連なっている――ということはなく、内側の球体内部はドーム型の船室だ。
つまり、これは乗物なのであるが、浮かべるのは海でも大気圏外でもない。特殊な場所を航行するためのマシンであり、マリューチン社が来春の発売を目標にする試作モデルのひとつである。
地下の実験ドックに降りてきたのは開発チームのシャラポフ主任、エンジニアのジリノフスキーとテレシコフの三人。全員男性で、管理職であるシャラポフ以外の二人は、休日手当目当てに大晦日返上で勤務に当たっていた。
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