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シャラポフは、ベッドから尻を離すと、テーブルの上の赤ワインをグラスに注いで飲んだ。ボトルに銘柄が書いていないのが気になるが、悪くない味だ。
「そろそろ年を越しますね」
とテレシコフが言った。彼はソファを回転させ、寝ているジリノフスキーのほうを向いた。
「ジリノフスキーさん、カウントダウンですよ」
「ん、ああ。変な夢を見たよ。夢の中で目がさめる夢だった」
「入れ子構造ですね。チェーホフ場の影響ですかね」
「まさか」シャラポフは笑った。「ワインまだある?」
「見てきます」
テレシコフはキッチンブースを覗いた。
「ああ、もうないです。さっきのが最後の一本でしたね。ウォッカももうないです。コーヒー飲みますか?」
「ああ、たのむ」
「俺は水でいいや」
そんなやりとりをしているうちに年を越したが、シャラポフに感慨はなかった。ニジンスキー効果のせいで、外の世界の正確な時刻はわからない。
「そろそろ帰還の準備をするか」
「まあ、まだ大丈夫だよ、主任さん。あわてなさんな」
「いや、せめてテーブルは片付けないとさ」
「真面目だなあ。まあ、ゆっくりしろや。テレシコフ、ワインあるか?」
「はい、ありますよ」
テレシコフがワインボトルを持ってきた。
「あれ? まだあったの?」
「まあまあ、細かいこと気にすんなって」
ジリノフスキーがシャラポフの目の前のグラスに赤ワインを注いだ。
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