マトリョーシカ

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 目が覚めると、シャラポフはかすかな重力の変化に気づいた。部屋は薄暗く、ドームのモニターに宇宙空間のような映像が映っている。  どれぐらい眠っていたのだろうと思い、腕時計を見て目を疑った。午前二時をとうに過ぎていた。 「しまった、ジリノフスキー、テレシコフ!」  返事はなかった。部屋には誰もいなかった。テーブルの上はきれいに片付けられていて、かすかな空調の音だけが虚しく響いていた。  明度の下がったタンク内は孤独そのものだった。プルシェンコ社製の空調システムがもたらす肌に優しい温度と湿度がかえって不安をあおる。  静かな重低音がずっと響いていた。その液化した鉛がゆっくりと転がるような音にあわせて、重力制御装置が作動し、室内のバランスを保っている。今自分が乗っているナノマシンが動いているのだ。  天井の映像は宇宙空間ではなく、ナノマシンが航行している場所だと気づいたとき、テーブルの上に立体映像が浮かんだ。三十センチぐらいの大きさに縮小された ジリノフスキーとテレシコフだった。 「おい、なに勝手に帰還しているんだ!」     
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