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「結論から言うと、あなたが今いるのはあなたの体内だ。あなたはマトリョーシカ実験第二段階の被験体に選ばれた。身体データを審査したところ、あなたが社内でもっとも適性があったのだ」
「なっ……僕の体内だって?」
見上げると、映像の明度が増し、そこが血管内だとわかった。巨大なドーナツのような赤血球が群れをなして流れていく。
「さきほどコーヒーと一緒にあなたが飲んだナノマシンは、今、あなたの体内にある。あなたは貧乏くじを引いたと思っているかもしれないが、とんでもない。あなたの体内であなたが体験することは、これから先の人類を救うことになるんだ」
このタンクは、医療用でも娯楽用でもなく、人類を滅亡から救う救命用の乗物だったのか。「ふん、さすが、先の先を読むマリューチン社長だな」
「シャラポフさん、実は――」ジリノフスキーが堅い口を開いた。「俺も主任に就任した。院卒のあんたらに追いつくには、手段を選んでいられないんでね、悪く思うなよ」
悪く思うなよと言っているということは、この状況はやはりジリノフスキーが出世と引き換えに自分を陥れたものであり、貧乏くじだったのだ。
シャラポフはイガイガする気持ちをワインで胃の中に流し込もうと思い、キッチンブースに入った。壁と一体化した冷蔵庫の引き出しを開けると、一ダースほどのワインボトルが入っていた。
「あれ? こんなに?」
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