マトリョーシカ

2/29
前へ
/29ページ
次へ
 計器類が無造作に置かれたごちゃごちゃした狭い通路を抜け、高さ二メートルの昇降階段を昇り、彼らが「タンク」と通称するその乗物の分厚い扉を開けると、自動的に室内照明が灯る。  柑橘系の香りが漂う快適空間が揃いの赤い作業着を着た三人のクルーを出迎える。  シャラポフは中央の白いソファにどかりと座って、ほのかな光を放つメタリックな丸天井を見上げた。  空気は清浄で、温度も湿度もちょうどいい。プルシェンコ社の最新型空気調整システムを採用しているのだ。  円形の部屋はシンプルで、中央の透明な丸テーブルを囲むように座り心地の良いソファ(背もたれが筋肉の動きを感知してくるくる回転したり角度や高さが変わったりする)が並び、壁際に操作パネルのついた小さなデスクがある。  壁が少し出っ張った箇所は、トイレとバスルームとキッチンブースだ。  床は白く、弾力のあるゴムカーペットの質感だ。丸天井の全体がほのかに発光しているため、影ができない。窓はなく、天井と壁全体がモニターになっている。  テレシコフが一〇センチ四方の立方体の箱をテーブルに置く。よく見れば、その銀色の箱の上面の中央に直径数ミリの丸い円がある。  ジリノフスキーは、面倒臭そうな目で銀色の箱を一瞥すると、壁際のデスクに向かい、無駄のない動きでてきぱきとエラーチェックを始めた。 「異常なし」    とジリノフスキー。 「ナノマシンも異常ありません」  今度はテレシコフが箱にカード型の計器をかざしながら言う。     
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加