マトリョーシカ

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「OK、同期開始」とシャラポフは号令を出す。  ジリノフスキーが操作パネルのスイッチを押す。  同期するのは、テーブル上の箱の中にある、直径約一〇〇ナノメートル(一千万分の一メートル)、気積五〇万ナノ立米の異空間が納められたナノマシンの内部と、特殊な球体フィールドで切り取ったこの世界の一部――このタンク内の空間だ。  ふたつの空間の情報を同期すると、それは別々の場所にある同一の空間となる。 「マトリョーシカ」と呼ばれるこの入れ子構造の作り方は、まず、異空間創出装置で五〇万ナノ立米の球体異空間を作り、ナノマシンの中に収める。  作られた異空間は、例えるなら、水槽の中の泡のひと粒だ。水の中にあり、水の中ではない。この宇宙の中にありながら、別の小宇宙でもある。  この異空間入りナノマシンを入れた容器は、さっきテレシコフがテーブルに置いた銀色の箱だ。    次に、タンク内五〇〇立米の球体空間を、銀色の外殻の内側で発生させた超次元暗黒波からなるフィールド、いわゆる〝チョーホフ場〟で包みこむ。  チェーホフ場の表面は、切り取った空間の境界面になり、物体が通過しようとすると破壊される。  チェーホフ場に包まれることは、よく、「俗世間から切り離される」という表現が使われる。     
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