1人が本棚に入れています
本棚に追加
「三十分おきの計測も省略だ。エラーチェックとトラブル対処だけでいい」
「おいおい、んなの聞いてねえよ」
「君らに黙ってたのも社長の指示だ。そのかわり、ワインとウォッカを積み込んでくれた」
「酒蔵に詰め込んでごまかす気か」
「それで、主任、時間はどれぐらいなんですか?」
「十二時間だ」
「はーっ。振替休日は選べても定時退社は選べないってか」
ジリノフスキーが白髪混じりの髪をかき上げた。
「いつだって貧乏くじだよ」
「すまん。非番じゃないのは君らだけだった。社長がマトリョーシカの完成を急ぐもんで」
「他社を出し抜くには休日返上で働くしかねえってんだろ。聞き飽きたよ」
「経費のかかる実験はなるべく年内にしたいと経理が言ってましたね」
とテレシコフ。
「税金対策ってわけか」
ソファはボタンひとつでベッドに変わった。バスルームのとなりのキッチンには、機内食のような弁当が用意されていた。
「チーズとクラッカーがありますよ」キッチンブースからテレシコフの声がした。
「ピクルスはあるか?」
「ないですね。あ、人工キャビアならありますよ」
「人工細胞、俺、食えねえんだよ」
「食糧危機だってのに、贅沢だね」
最初のコメントを投稿しよう!