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ミクロの世界を旅するだけなら、べつに入れ子構造にしなくてもいいのだが、なぜわざわざそうするのかというと、他の企業がまだ手をつけていないから、という至極単純な理由からである。
タンク内のマクロ空間とタンク外のミクロ空間を同期させる技術はすでに実用化されているが、入れ子構造にはどの企業も及び腰だ。チェーホフ場の内部に同期先のナノマシンを入れることは、それだけ技術的コストがかかり、ニジンスキー効果の増大や機械トラブルの危険性も増すからだ。
しかし、コストを度外視すれば、マトリョーシカには様々な用途への応用が期待される。
「ここは世界初の入れ子手術室になるわけですね」
とテレシコフは言った。
「早ければ来月にはここでオペ実験するという話です」
「へえ、そうなんだ」
医者が患者の体内に入って、モニターで患部を視認しながらオペができる。医学界に革命をもたらすだろうというのは社長の口上だ。
「医者が自分の刺したメスに自分の乗っているタンクを壊されるなんて事故、起きないかなあ」
「ははは。まあ、ナノマシンの大きさからすれば、それはありえないですけど、似たような事故は起きそうですよね」
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