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ふいに電話が入ったのは私の成人式のお祝いの夜。それは警察からで『遺体の確認』に来て欲しいと言うのです。確認しなければならなかったのはヨシタカちゃんの遺体でした。
長い時間かかってお父さんと伯父さんと従兄がヨシタカちゃんを連れて帰ってきました。
「お疲れさまでした・・・」
お母さんの声にもお父さんは返事なく仏間に休ませたヨシタカちゃんのそばにペタっと座り込んだまま
ボンヤリしてました。
「アカン・・・警察でもあの調子や」
「義兄さんと雅司くんがいてくれて
助かりました。ホンマに
お疲れ様でございました」
「東京の母さんにもアラマシは
話したんですが、」
建設現場の日雇いで同じように働いていたお爺さんがモタモタしているのを小突いた監督と揉み合いになって三階足場から転落したと・・・。
私達が話していると、玄関が乱暴に開いて
「ヨシタカ!ヨシタカ!」
叫びながら廊下を駆けてきた伯母さんが仏間をバタンと開けました。仏壇の前のヨシタカちゃんに抱きついて
「なんでえ!なんでえぇぇ・・・」
繰り返し繰り返し、ヨシタカちゃんを撫でました。
「この子のイッポンギが・・・
いつか、いつか命を・・・
縮めるんやないかと・・・」
お父さんの口が開きました。
「顔見て・・・文句言うてしまうより
・・・そっとしといて・・・
生きてくれてるだけで
よかったのにぃ・・・」
「ヨシぃ・・・ヨシタカぁ」
伯母さんの涙でヨシタカちゃんの顔がグヂャグヂャになっていました。
仏間をそっと閉じて居間へ入ると
「遺影用の写真、探してたんやけど」
従兄が泣きながら示した一枚は、ヨシタカちゃんの小学校入学時の古いカラー写真。
誰がともなく嗚咽が漏れても、誰もそれを押さえきれない一枚・・・。
『僕の将来は学者』と書いた紙をしっかり持つヨシタカちゃんに頬寄せる伯母さんと、
ヨシタカちゃんの首を指で擽るお父さん。
真ん中でヨシタカちゃんが笑ってました。
冬の日だまりに安堵するスズメのように
目を細くして・・・笑ってました。
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