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この空を飛べたなら
ヨシタカちゃんは私のお父さんの15歳下の弟でした。だから姪の私やお父さんの姉さんの子供達とも歳が近いので、私や従兄は『ヨシタカちゃん』と気安く呼んでました。今でいうイケメン、しかも5歳で小学6年の漢字くらいスラスラ書いたと言う賢さで近所でも評判の『神童』、私自身の五歳頃といえば『パンダ』が上手く言えずに『パンナ』と言ってたそうですから、なるほど賢かったんやと思います。その頃私達が住んでいたのは南海線浜寺公園、一緒に住むヨシタカちゃんは神戸大学の学生でした。
ある日曜日の午後、
「ヨシタカ、ヨシタカ!おるのやろ?!」
「姉さん、エラい剣幕でどうされました?」
お母さんが様子を伺ってると
「何事や、姉さん、ヨシタカが・・・」
お父さんが居間に来て
「僕が昨日教授とケンカした」
台所からペットボトルのコーラを飲みながら後に続いてヨシタカちゃんが入ってきた。
「担当教授に『ちゃんと勉強してから
エラソうにせい』言うたんやて?!
ウチの人から聞いたんや!」
伯母さんの御主人は東京の私立大で大学教授をしていました。
「早耳やなあ」
他人事みたいに笑いながらヨシタカちゃんはソファに寝そべる。
「エラい義兄さんに恥かかせて、
今お詫びの電話を」
お父さんが謝ると
「いや、ウチのはそんなん怒ってへん、
・・・私も興奮し過ぎたわ」
「せやせや、姉ちゃん、
あんまり怒ったらシワ増えるで」
「ヨシタカ!誰のせいやと思とるんや!」
お父さんが声を荒げた。
「似たようなことで京大ヤメて、
神戸では大学院まできたから
ヤレヤレ思ってたのに」
伯母さんは落胆ついでにヨシタカちゃん
の隣に腰を降ろして
「ウチのが『学問は出来るんやから
後は“大人になってくれたら
“エエ学者になる』言うてんのに」
ヨシタカちゃんのひざを撫でた。
「“大人“にならんと学者になれん
のやったら学者にならんでええわ」
ヨシタカちゃんが横向いて言うと、
「ヨシタカ、いつも言うてるやろ、
人はそこら辺におるスズメやない。
気に入らんからってあっち飛び
こっち飛び出来んのや!」
「ホンマ、兄ちゃんの言う通りなの。
3度目の正直で東京来るか?
ウチのが面倒、」
「もうエエ!もう僕のことは
放っておいてくれ!」
空のペットボトルを庭に投げてヨシタカちゃんは出ていきました。
居間だけでなく本当に家を出ていきました。
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