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曖雨/クライアメ
さっきまで青空が覗いていたというのに、ぽつりぽつりと頬に感じた雨は、目的地に着いた時には傘なしで歩くのが愚かなくらいの激しさになっていた。
髪は水が滴る程に濡れそぼり、黒いリュックは水を吸って更に黒さを増してしまった。
両手に雨水を握り、僕は空につられて涙を流す。
頬を伝う雨が隠してくれるから流した涙。
古いアパートの二階奥のブザーを鳴らす。
鍵を開ける音。
ノブが回りドアの隙間から君が見える。
僕は君の家の中にそっと足を踏み入れた。
濡れた僕を、君は放ってはおかなかった。
バスタオルを貸してくれて、君は僕のリュックを拭いてくれた。
君はそういう人。
「さっき、泣いてなかったか?」
ほら、ちゃんと気付いてくれた。
君は優しい人。
僕は首を横に振る。
さっきのは雨。
泣いてなんかいない。
濡れた靴下を脱いで君の家に上がる。
上着を脱いだら、君はハンガーに掛けてくれた。
君の部屋で僕は、濡れたジーンズとシャツを脱ぐ。
下着も全てその上に重ね、僕は君のベッドに腰掛ける。
そして、君は僕に、愛撫する。
小さなアパート、声を上げてしまったら響いてしまう恐怖。
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