曖雨/クライアメ

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 階下を恐れて、身悶えすることも躊躇(ためら)われる。  目を瞑って、ただ、終わりを待つ。  優しい君が、僕を乱暴する終わりを。 「やっぱり、泣いてる」  いつの間にか動きを止めていた君。  その声に、僕はそっと目を開ける。  君は僕の涙の跡を目でたどり、最後に瞳を覗き込む。  雨のせいだ。  雨が僕を、悲い気持ちにしてしまったから。 「もう、やめようか」  僕は瞳を閉じて、また首を横に振った。  君にとって、僕はストレスの捌け口。  君の暴力衝動を、僕は全て受け止める。 「そうか」  君は再び僕を犯す。  君は乱暴することで、僕に性質の一つを表現する。  自分は善人ではないのだと、僕に強く表現している。  君は悪人だと認めるのが、僕の役目。  帰り、君は洋服を貸してくれた。  君は優しい人。  僕だけが知っている、君の本当の姿。  君に犯されて、脅されて、君の言うなりになった僕。  僕は悲しい。  君が歪んでいるからじゃない。  君が僕を、愛してくれないから。  僕は優しい君を、愛してしまったのに。  君は自分の愚かさを心得て、愛することと愛されることを禁忌として生きている。  濡れた服を袋に詰めて、僕はアパートを出た。  雨はまだ降っていた。  借りた服は、温かった。     
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