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『貴女が使いたいと思った時に使いなさい』
そう言って祖母が渡してくれた護身用のナイフ。
僧侶は、回復や補助魔法しか使えないので、攻撃が全く出来ない。そのため、魔法を施されたナイフや杖などの武器に頼るしかないのだ。
僧侶最強である祖母も、世界で2つとない業火の杖による炎でしか攻撃ができない。時々武道を極めた僧侶もいるが、武道で敵を倒せる代わりに回復魔法の力の特訓を怠るため僧侶としてほぼ使いものにならなくなってしまう。
だから、武器は僧侶にとって必要不可欠だった。
大抵が回復強化用の杖と、攻撃用の武器と2つの装備を持っている。そうでないと別の村の僧侶と同じような”普通の僧侶”になってしまう。それはプライドが許さない村の人々は”特別な僧侶”であるために必ず2つ武器を持っていた。私の母も、祖母ほどではないが他より強い力を持つのに必ず武器を2つ持ち歩いていた。
でも、祖母は業火の杖のみだった。
元々の力が強いから回復強化用装備がいらない祖母は攻撃用さえあれば無敵だった。一人で行けば例え勇者職でさえも必ず命を落とすと言われる”死の森”にも生きて帰ってこれるほどに。
そんな祖母が、殺された。
……私に、殺しされた。
祖母が願いと想いを込めた、特別なナイフで。
真っ赤に染まったナイフ
命の灯を失い倒れ赤い水たまりを作る祖母
その傍らに伝説の武器とも言われたただの木片と化した業火の杖
赤い水たまりの中佇む虚ろな瞳の私
身に纏っている元は緑であったものが赤く染まった僧侶のローブ
祖母の家に尋ねてきた私の母が見たものは、そんな光景だった。
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