忍び寄る影

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 去年成し遂げた偉業によって有名になってしまった自分は、明里からたまにナポレオンと呼ばれている。理由を聞いた時は、「英雄と言えばナポレオンでしょ」と馬鹿げた言葉が返ってきたので、思わず飽きれてしまった。 「あーあ、始業式も去年の生徒議会みたいに盛り上がったら面白いんだけどな」  さっきの冗談は無かったかのように、明里が話題をさらりと変えてきた。  本来、全校集会にしろ生徒議会にしろ、体育館に集まって聞くような話しで盛り上がることなんて滅多にない。 去年はテーマに話題性があったことと、驚異的な短期間で目的が達成された衝撃によってみんな盛り上がっていたのだ。八百名以上の女子生徒たちが歓声を上げる光景は圧巻で、中には感極まって泣く生徒までいたぐらいだ。 「でも今年は新しく赴任してきた先生が注目されてるって、さっきクラスのみんなが話してたよ」  結衣がスカートの裾を触りながら言った。 「ああ、なんか男前らしいね」  明里が少し興味ありそうな口調で答える。男前、という言葉を聞いて羽澄の頭の中には拓真の顔が浮かんだ。 「ま、彼氏持ちのあんたには関係ない話しだろうけどね」 明里の言葉にギクリと耳の奥で効果音が響く。その音が表情にも出ていたのか、「ほらほら彼氏のことばっかり考えない」と明里がまた茶化してきた。 「うるさいなー」と羽澄は少し赤く染まった頬を隠すように顔の前で手を振り、歩みを早めて体育館へと向かった。     
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