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噂によると近郊の男子校の生徒が、和泉先生を見たいが為に覗きにやってくるという話しもあるぐらいだ。その話しを初めて聞いた時は、「男子ってほんとバカだな」と羽澄は呆れ返っていた。
ちなみに女子校でありながら和泉先生に人気があるのは、そのさばさばとした性格も一役買っている。
「ほら二組! 早く並べ」
和泉先生の号砲が自分たちのクラスに飛んできたので、羽澄は慌てて前から二番目のいつものポジションを目指した。その途中、和泉先生と目が合いそうになり、咄嗟に視線を逸らした。このタイミングで目が合えば絶対に睨まれるから。
「羽澄、久しぶり」
一番先頭に並んでいた麻耶が小声で言ってきたので、羽澄も「久しぶり!」と笑顔で返事した。つもる話しはあるけれどもちろんここではできないので、羽澄は続けざまに出そうになった言葉たちを喉の奥へと飲み込んだ。
舞台の方を見ると生活指導の高杉先生が、怒った感情を表現しているような尖った眼鏡をくいくいと上げながら見下ろしている。
「みなさん、早くお並び下さい」
厳しい目つきを光らせながら、マイクを通してヒステリックな声が館内に響いた。
生活指導の重鎮、高杉富美子は初芝女子校でかなりのベテラン教師だ。
歳はおそらく四〇代後半。スタイルの良さとは種類の違う細身の身体で、逆三角形に近い鋭い眼鏡がトレードマーク。
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