新しいスタート

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チョークが黒板に当たる音がテンポよく教室に響く。そのリズムに合わせて、和泉先生の艶のある黒い髪がなびく。グレーのパンツスーツとスタイルの良さも合わさって、その後ろ姿をずっと見ていられそうだと羽澄は思った。  怒ると怖いけど、和泉先生はいつも自分たちのことを考えてくれている。だからこのクラス以外でも、和泉先生に進路のことや人間関係のことで相談する生徒も多い。才色兼備、という言葉は知っているが、それはきっと和泉先生のような人を指すのだろう。 (そう言えば和泉先生って結婚してないんだっけ?)  これだけの美貌を持ち、てきぱきと仕事もできる和泉先生が独身というのも、よほど世の男どもは見る目がないのだ。まあ女子校の先生だと、単純に出会いがないだけなのかもしれないけれど。 そんな余計なことを考えながら黒板を見ていると、振り向いた和泉先生とまたも目が合ってしまった。反射的に姿勢を正すと、「今日は珍しくちゃんと起きてるな」とコメントが飛んできた。 再び笑い声に包まれた教室で羽澄は苦笑いをしつつも、その美しい横顔に見惚れていた。 「おーい、新人。この荷物の整理よろしく」 事務所のパソコンの画面を見ていると、二つ隣席の先輩の声が聞こえてきた。「はい!」と元気よく返事をして顔を向けると、「元気いいね」と和やかな表情で先輩が言った。  社会人の基本は愛想の良さと挨拶。     
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