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これは以前の職場で磨いてきた自慢のスキルだ。お客様にしろ、同じ職場の人間にしろ、対人間であるならこういったスキルが大切なのだ。
急いで席から立ち上がると、事務所の隅に置かれている今日届いたばかりの納品物を棚に整理していく。少しでもてきぱきした印象を持ってもらうために、素早い行動を心掛ける。
「頼んだよ」と言って先輩はぽんと肩を叩くと、そのまま事務所を出て行った。室内をざっと見渡せば、デスクが並べられた空間に二十人近い社員たちが自分の仕事を各々に進めている。
随分と前の職場とは環境が変わったな。
見渡すとどこにでもあるオフィスだが、以前のようにピリピリとした雰囲気に包まれていない。これも扱っている商品の違いによるものなのだろうか。
前職ではわりと有名な不動産会社で働いていて、富裕層相手に高級マンションを売ってきた。
右も左もわからない初めての社会人生活の中で、何事にもがむしゃらに体当たりしていき、三年が経つ頃には部署内でも期待の若手エースとして大型物件を担当するようになった。
好調な社会人生活のスタートに、自分の未来に希望と期待という光が見えて喜んだ。が、そんな時だ。望んでもいない人生の転機が訪れてしまったのは……。
きっかは何気無しにかかってきた一本の電話。
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