新しいスタート

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「美しい夜景が見えるタワーマンションを探している」という甘い誘惑にまんまと引っ掛かってしまった自分は、その後数ヶ月間にも及ぶ地獄を経験することになったのだ。  電話の後日、クライアントと初の顔合わせの場に現れたのは、中年太りのお腹と妙にふさふさとした髪の毛が目立つ五〇代くらいの男性だった。 着ていたスーツは見るからに一流ブランドだったので、購入に繋がる可能性は高いと踏んで、始めは密かに喜んでいた。  しかしこの男、マンションへのこだわりがかなり強く……、というよりクライアントの奥さんのこだわりが強烈過ぎて、六法全書かと思うような細かい制約がたくさんあったのだ。  更には奥さんの口から「YES!」を言わせる為に、自分が普段行っている下準備の百倍以上の準備が必要だった。指示の多い資料作成から、入念すぎる打ち合わせのシュミレーション。  これは大統領にプレゼンする為の準備ですか? と聞きたくなるような試練を乗り越えて迎えた当日、そこに現れたのは大統領ではなく、全身ピンクの悪魔だった。 そのあまりの衝撃的な出で立ちに、てっきり自分は何かどっきりを仕掛けられているのではないかと疑ってしまったほど。     
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