忍び寄る影

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 燃えるように熱いアスファルト。いつもの坂道。交差点で顔なじみのお花屋さんのおばさんに挨拶してから一直線。見慣れた校舎の姿が見えてくる。うん、ギリギリ間に合いそうだ。  三度目となる二学期初日。飯田羽澄は全力疾走で学校までの道のりを走っていた。 これからはちゃんと早起きが出来ますように、と願いを込めて買った新しい目覚まし時計は、まさかの初日から不戦勝。「早く起きなさい!」のお母さんの声で飛び起きてから、今のところフルスピードだ。 「あー、昨日の私、バカ!」 昨夜は寝る前に拓真から電話がかかってきたのが嬉しくて、つい就寝時間をいつもより大幅にオーバーしてしまったのだ。 向こうは、「もうそろそろ寝たほうがいいんじゃない?」とせっかく気を使ってくれてたのに。挙句、浮かれた気分のまま布団に入ったせいで、目覚まし時計のセットを忘れる始末。これじゃあいつまで経っても先が思いやられる。 校門が見えてくると、警備員のおじちゃんが門を閉じる準備をしている姿が目に入った。 「おはようございます!」と挨拶して駆け込めば、「飯田ちゃん、今日もぎりぎりだね」と笑って返事が返ってくる。まさしく、常習犯の名にふさわしい。 昇降口までたどり着くと、自分と同じように慌ただしい生徒たちが大急ぎで上履きに履き替えている。     
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