忍び寄る影

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羽澄は無理やり両手をほどくと急いで机の上に鞄を置いた。三年生になった時は「余裕を持った行動」を豊富にしたはずだけど、未だに実現できたことはない。 「羽澄!」と教室のドアを開けながら叫ぶ明里に向かって再び猛ダッシュ。もうこんなぎりぎりの生活は嫌だ! 廊下に出ると結衣と翔子も焦っているようで、階段の方から「早く早く」と手招きしている。 先ほどの息切れも完治しないまま一歩を踏み出そうとするも足が重い。私はいいから先に行ってて、と言おうとしたら「何してんのよ!」と明里に腕を掴まれて引っ張られる。 「ちょ、明里、自分で走れるから……」 「あんたは信用できない!」 ぴしっと閉められた襖みたいな拒絶の言葉に羽澄は頬を膨らませ、明里と一緒に階段を降りていく。その少し先では自分たちの様子を気にしながら、結衣と翔子が体育館へと向かっていた。 体育館は校舎左側の一階部分から廊下で繋がっており、入口手前の通路はセーラー服を着た生徒たちでごった返していた。 「なんだ、まだ全然間に合うじゃん」なんて言葉を呟いたら、「私が頑張ったからでしょ」と明里にこつんと頭を叩かれた。「もう」と羽澄はわざと痛そうに頭をさすりながら辺りを見渡すと、一人足りないことに気がついた。 「そういえば沙織はどしたの?」  今更? というような呆れた表情を浮かべて明里が羽澄の顔を見た。     
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