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羽澄は両手で顔を隠すように覆うと、指先だけを広げて前を見た。視界には自分たちと同じセーラー服を着た女の子たちの群れが、民族大移動のように体育館へと向かっている。
そしてこれだけの人数の女子が集まれば、当たり前だがいたるところで会話に花が咲いていた。
「ねえねえ、宮高のあの男子とはどうなったの?」
「えー、この前の彼氏と別れちゃったんだ……」
学年や性格が違う女子たちが集まったとしても、みんな喋りたい話題と言えば同じだ。そしてこれこそが、昨年羽澄が成し遂げた偉業の成果だった。
「まさかこんなにも堂々と恋愛の話しが言える日がくるなんてねー」
明里がしみじみとした口調で言った。それに合わせて結衣がうんうんと頷いている。
いつもと変わらない風景の中で、変わり過ぎてしまった生徒たちの会話。伝統を重んじる我が校で起こった奇跡の改革。羽澄は未だに自分がその渦中にいたことに実感はなかった。
「しっかしまさかあんたが初芝女子校の一三〇年の歴史を変えるなんてね」
明里がお化けでも見たかのような目で羽澄のことを見る。
「やっぱり、『愛』の力って凄いんだね!」
結衣も去年のことを思い出したのか、突然頭にお花畑が咲いたようなセリフを言い出した。愛という、よく耳にする慣れない言葉に羽澄は耳を赤くする。
「ちょっと結衣、恥ずかしいからそんなこと言わないでよ……」
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