<最終話>

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 それだけの、意思。  いや――本当はもう、ここあにもわかっていることだ。  一ノ瀬皐月が自分に勝てたのは、魔法耐性があるだけのただの人間であったからこそ。  それでも、変わってしまった世界に対して泣いて諦めることをせず、まっすぐに正々堂々対峙できたからこそ。  それが本当はどれほど難しいことなのか、本当はもう――わかっているのだ。 「お前は結局、お前にしかなれない。お前にしかなれないからこそ、出来ることもきっとある。……そのための努力を、お前さんは辛いものだと思い込んでるみたいだけどな。そうでもないぜ?結果が出ようが出なかろうが、そんな努力を見ていてくれる人間がどこかにはいるもんだ。……一ノ瀬皐月の地味な努力が、実際サッカー部の連中にはしっかり見えてたのと同じようにな」  ここあが逃げ出した後、あの世界がどうなったのかはわからない。ただサトヤに叱られて、魔法の痕跡とここあがいた数日を完全になかったことにした後は、一切あの世界を覗くということはしなかったためだ。  それでも、なんとなくわかることはある。  きっと、一ノ瀬皐月は幸せになるのだろう。――彼女が支払った、日頃の努力に対する成果という形で。その傍には、あの萬谷慧も傍にいるのかもしれない。 ――今度は、もう少し…上手な物語。あたしにも書けるのかな…。  まだ幼いという自覚は、ここあにもある。  きっと幼くて、未熟で――自分はまだ、これからも多くの失敗をするのだろうということも。  それでもいつか、自分は他の誰のことも傷つけない、ちゃんと自分以外も愛することのできる魔法を作ることができるだろうか。  愛をもって、人を不幸にする黒い魔法ではなく――人を幸せにできる、白い魔法を、いつか。  夢見の魔女は、椅子に座って考える。  努力をする、勇気。ほんの少しでもそれを振り絞れるように――人間の少女達と同じことを、考えるのだ。  いつか、本当の自分自身が、誰かと幸せになれるようにと。
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