<第三話>

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「えっと……多分、僕が入部したのと同じくらいの時期、だったと思いますけど…」 「多分、なの?よく覚えてないの?」 「いえ…覚えてますけど。どうしてそんなことを?」  そう返されると辛いものがあるが。ここは、たった今慧が言った言葉をそのまま応用させて貰うことにしよう。 「私も、よく思い出せないから…どうだったかなって。いつから彼女はあそこにいたのかなって。監督にも信頼されてるみたいだし」 「それはそうですよ。去年からずっとマネージャーをやっていて、みんなのトレーニングメニューとか作戦とか監督と一緒に考えてくれるくらい凄い人ですし。その…まだマネージャーになって日が浅い一ノ瀬先輩は御存じでないかもしれませんが…」 「……そっか」  そういうことになっているのか、自分。  皐月は泣きたい気持ちを必死で堪えた。本当は違うと、そう叫びたかった。いつもずっと、みんなを支えてきたのは自分の方だと。自分はずっと、みんなの仲間だったはずだと。  そして、八代ここあなんて人間は――このサッカー部にはいなかった筈なのだと。 「…私、ずっと此処にいたのになあ……」  思わず呟いてしまい、はっとした。目の前で彼は首を傾げている。おかしいと、そう思われたかもしれない。本格的に嫌われてしまったらどうしよう――そう思って皐月が誤魔化そうとした時だった。 「ちょっとぉ!何してるんですか一ノ瀬せんぱーい!掃除とか洗濯とかいっぱいあるのに、いつもみたいに“また”サボる気ですかー?困るんですけどそーゆーのー」  少し甘ったるくて、ぬめっとした愛らしい声の主――八代ここあはいつからそこにいたのだろう。当然のように近付いてきて皐月を押し退けると、目の前の――慧の腕に手を回して、苦笑したような顔で笑って見せた。 「あとあと!いくらあたしの慧が可愛いからって、取ったりしたらダメなんですー!」 「あたしの…慧?」 「そーですよぅ!」  彼女は見せつけるように、ぎゅっと慧の腕に絡み付いて笑った。 「みんな知ってるはずですよね?慧とあたし、付き合ってるんですよぉ?」
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