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皐月は、慧のことが好きだ。
慧のすべてを知っていると思うほど自惚れるつもりはないが――好きだからこそ、いつも目で追っていたからこそ、知っていることは多いはずだと確信している。物静かでストイックな彼は、何かに一生懸命になるとそれ以外に目を向けるのが難しい質だと皐月は考えている。女の子達に好意を向けられても殆ど気付かず、告白されても“今はサッカーに集中したいから”と断っていたほどの彼だ。
そんな彼が。突然恋人を作る。――いや、全く有り得ない、とは言わない。皐月は慧が好きだけれど、だから彼女になったわけでもないのだ。私の慧を取らないで!なんて図々しいことを言うつもりは全くない。きっと凄く泣きたくなるだろうけれど、それだけだ。慧が本気で好きになった相手なら、どれだけ悔しくても悲しくても応援しなければならない、と思う。その幸せを願うなら、尚更に。
だけど。
――それは……得体の知れない相手じゃなかったらの話だ……!
ここあの事はどうしても好きになれないが、そんなことを抜きにしても彼女は何かがおかしい。
だから皐月は、話があると言ってここあを校舎裏に呼び出していた。まるで告白か決闘のようなシーンだが、他の誰かに話を聞かれてもややこしいだけである。
もし。もしも皐月が予想した通りなら。――皐月はこの世界で、一人で戦わなければならないことになるのだから。
「えっと、話ってなんですかー?」
彼女はまるで、何も分かりませんという風に首を傾げてみせた。ウェーブのかかった茶髪。日本人と呼ぶには少々異質な赤い瞳。小柄でほっそりとしていて、それでいて胸だけは立派なものだ。――なるほど、男の子が好む“守ってあげたくなるか弱い女の子”と“ついつい鼻の下を伸ばしたくなるロリ巨乳な美少女”を兼ね備えた外見だと言えるだろう。
だからこそ、思う。――彼女は存在そのものが――あまりにも、出来すぎている。
「回りくどいの苦手だから、単刀直入に言うね。…八代ここあ。君は…誰?」
長話したい相手でもない。皐月はストレートに切り出す。
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