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――あああもう私ってば単純すぎるるるるる!!
元々、ちょっとあの子かわいいな、と思っていた相手。初めて手を握った、その瞬間。
皐月はもう、それはあっさりと簡単に恋に落ちてしまったのだった。完全完璧、一ノ瀬皐月の初恋だった。小学生時代はわりと男勝りで男の子に混じって遊んでばかりいたせいか、恋らしい恋をしたことが一度もなかったのである。まあ、周囲が見事に悪ガキだらけだったというのもあるのだろうが。
――格好いい格好いいほんとに格好いい!側にいたいけど側にいると挙動不振になっちゃうよおおおおおお!!
元々腐った乙女である。妄想力は逞しい自覚があるのである。
どうにか今のところは慧の前でおかしな事を口走らずに済んでいるが――こんな調子では、一体いつタガが外れてしまうやら。それが正直、怖くて仕方がないのだった。
慧が今、サッカーに誰より真剣であることはわかっている。ジュニアユースから声がかかっている、なんて噂が出るくらいには凄い選手なのだ。夢はプロサッカー選手だと言っていた。慧なら叶えても不思議じゃない、そう思っているのは皐月だけではないだろう。
彼は最前列のFWながら、まるで背中に目がついているのではないかと思うほど状況がよく見えている。敵陣の穴をついてそこに飛び込むのが上手い。パスを受けてからシュートまでの最短距離がいつも見えている。それでいて、敵から身を隠してマークを外せるだけの技術と機動力も併せ持っている――。
――カレカノとか、そんなのなれなくてもいいよ。私は、君の足を引っ張りたい訳じゃないから。重荷になりかねないなら、今のままで全然いい。
慧が、好きだ。
だからこそ自分が一番優先させるべきは、慧の夢。皐月は誰よりもそれを理解していた。
――だから。告白なんて…絶対にしない。余計なストレスかけたくない。気を使ってほしくもない。…このまま。今までのまま。それだけで私は…幸せなんだから。
皐月は嘘偽りなく、そう思っていた。
ただこうして、仲間の一人として彼の夢を支えられるだけで――心の底から、幸せだと感じていたのだから。
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