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マネージャーという仕事は、実際のところかなりの肉体労働である。
というのも、選手のフォローとされる雑事は全般的にマネージャーに回ってくることになるからだ。恐らくその学校によって考え方はまちまちなのだろうが、皐月の場合はロッカーや共有タオルの洗濯、掃除、ドリンクを作ったりボトルを洗って乾かしたり――かと思えば主務のように選手のデータまとめに奔走したりと仕事は山のようにある。
掃除や片付けを率先して手伝ってくれる部員もいるが、なるべく雑事は自分でこなしたいと皐月は思っていた。疲れきっている彼らに余計な疲労を負わせたくないのもある。彼らが、練習や試合にだけ集中できるような環境を整えるのが自分の仕事だ。現在は一人しかいないので目が回りそうになることもあるが、それらの仕事が皐月はけして嫌いではなかった。
大好きなみんなの役に立てている。大好きなサッカーの手伝いができている。――それだけで、正直これ以上なく幸福なのである。
「一ノ瀬先輩、ボトル洗い手伝いますよ」
練習後。てとてとて、と軽い足音で近づいてきたのは慧。よりによって君か!いや嬉しいけど!嬉しいけど!!とパニクっている内面とは裏腹に、じゃあお願いするね!とどうにか笑顔で答える自分。
我ながら見事な演技力である。願わくばぜひこのまま卒業まで完走してもらいたいものだ、自分。
「ありがとうね。ちょっと数が多くて時間かかっちゃってて」
「大変ですね。それなら毎日手伝いますよ?」
「え!?い、いやいいよ!そんなの!!大変すぎるもん!!疲れてるんでしょ、無理しないでよ!」
ああ、自分の馬鹿。嬉しいくせになに断ってるんだ。
あまりにもぶんぶんと首を振られたので誤解したのか、少しだけ寂しそうに彼は“そうですか”と返してきた。あああ、違うんだよ違うんだよ、断じて迷惑なんかじゃないんだよ!!と叫びたくとも叫べない皐月である。自分の不器用さが本当に憎たらしいったら!
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