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元々、皐月もサッカーをやっていた一人だった。小学校時代はずっとゴールキーパーである。ゴールキーパーという役職はプレッシャーが強い割りに自分でかっこよくシュートを決めることができない、という理由で嫌煙されがちだが――皐月はそのゴールキーパーの仕事が嫌いではなかった。
幼稚園から小学校までサッカーをやっていたとはいえ、実際皐月の腕は可もなく不可もなく、程度であったことだろう。もちろん、サッカー経験ゼロの他の女の子達と比べれば上手いだろうが、それだけだ。最大の理由が、ドリブルが滅茶苦茶下手であったこと。ボールコントロールに難がありすぎて、パスにしろドリブルにしろボールが思っている方向に飛んでいってくれないのである。――そりゃ、フィールドプレイヤーを任されないはずだ。
しかし、それでもキーパーとしてならピッチに立つことが許されていたのは。皐月の最も得意とする点が、キーパーゆえに生かされるからだった。
そう――フィールド全体を見回す、観察力である。キーパーは唯一手を使うことが許されるポジションであり、基本的にゴールに張り付いて守り続けるのがお仕事。つまり、いつもメンバーの最後尾に立っているということである。キーパーだけが見える景色がある。味方の穴も敵の穴もキーパーだからこそ見通せるのだ。その上で的確な指示が出せれば――運動能力そのものがさほど高くなくても、立派に戦力としてやっていくことができるのである。
――たまには、自分でやりたいかな、サッカー。
自分の部屋のベッドに転がって、皐月は思う。
どういうわけだか知らないが、サッカーといえば男子のもの、というイメージは強い。中学のサッカーでは、女子が混ざっていたらいけないなんてルールはないはずだが、様々な理由から男女混合でプレイしないのが暗黙の了解になっている。――おかしな話だ。それならそれで、どうして部活動の名前を“男子サッカー部”にしないのだろう。
同じことが野球にも言える。バレーボールやバスケットボールは“男子バレー”“女子バスケ”というのに。何故“男子サッカー”“男子野球”とは言わないのか。男女を区別するのは妥当だと思う反面、名目上だけは“差別していません”みたいな扱いになっているのは、少しもやっとしないわけでもなかった。
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