水槽の魚の話

38/38
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
 けれど、このままこの想いを抱えて二人で生きていくのは耐えられなかった。陽のあたるところで一緒に歩くことができなくても、普通の恋人のように手を繋いで笑い会えなくても、隣にいて欲しかった。それがもし、たった一時でも。靖真が、深く息を吸って大きな溜息を吐いた。 「……嫌になったら、すぐに俺を突き放せよ。そうしたらその時は、ちゃんとお前を離してやるから」  シエラの背中に回された腕に、強く力がこもる。しっかりと抱きしめられて、シエラの眉が下がった。それだけでもう、泣きそうだった。感極まって、変な表情になりながらもシエラは笑った。 「なら、ずっと一緒だね」  本当は、欠片も未来なんて見えなかった。精一杯の強がりに、靖真は微笑んで、そっと触れるだけのキスをした。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!