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「でも、逃げなきゃ」
逃げなければ、逃げなければということで頭がいっぱいになる。全力で走るが、徐々に失われていく水分により、頭がふらふらとしてくる。しかし、ふと気が付く。
「あれ、どうしたら、助かるの」
路地裏の暗い道は、少し先になると足元も見えない。奥に何があるのかもわからない。その黒が、シエラの心を侵していく。
どこへ逃げればいいのか分からない。逃げても水がなければ生きていくことができない。そして、逃げ切った後どうすればいいのかも。それに気づいた瞬間、ふらついた足が、地面に無造作に置かれたゴミに引っかかる。よろめく体を支えきれず、シエラは地面に打ち付けられた。
「っつ…………」
一度倒れ込んでしまうと、立ち上がる瞬間には倍以上にも感じる全身の痛みと、疲労。ふらふらとした足で、なんとか立ち上がった。
「ここで死にたくない」
シエラの頭にセレスやクロードの顔が浮かんだ。彼らとまた再び会うため、それ以上に恐怖の為にシエラはふらつく足を前に出した。正しくは、出そうとした。足は前に出たが、崩れるように膝が折れる。
「え、あ」
力を入れようとしても、なかなか力が入らなかった。徐々に意識が朦朧としてくる。視界が揺れる。少しずつ体温が低下していく。元々低い体温が、どんどん下がっていく。
「さむい」
少しずつ落ちていく思考力に、寒さと苦しさ、眠さに囚われる。死の恐怖に体が震える。
「……にたくない……」
捕まりたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、とシエラの思考が埋め尽くされていく。ガタガタと震える体を抱きしめて、シエラは小さく縮こまった。
「怖いよ……」
震える彼は、迫る影に気付かなかった。カサリ、とビニール袋に何かが触れる音がした。その音に、びくりとしながら、シエラは少しずつ焦点の合わなくなってきてた目でその影を見つめた。
「……た……けて……」
シエラは無意識に影の方へと腕を伸ばした。その腕を、影はしっかりと掴んで引き上げた。そして、彼が自分自身の力でちゃんと立てないことがわかると、軽々と持ち上げた。シエラは、彼のがっしりとした腕に支えられ、その暖かさにほっと息を吐くと共に、意識を手放した。
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