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「そういえば、聞いたか? なんか最近怪しい団体が出てきてるっていう話。隷獣関連の」
「あー、クリムゾンだっけ」
「違う、カーマイン」
一人の隷獣として気になる話題に、シエラは耳をそばだてた。靖真も、料理を作る手は止めずにそっと聞き耳をたてているのを雰囲気で感じた。
「愛護団体とか銘打ってかなり強引な勧誘とか、誘拐まがいのことまでやるらしいぞ」
「ふーん、おい、大将、あんたも珍しいの飼ってんだから気をつけろよ!」
突然振られた会話に、靖真がにかっと笑って返す。
「おぅ、俺は何があってもシエラを離さないから大丈夫だ!」
かぁっとシエラの顔に血が上った。白い頬が真っ赤に染まる。常連達がそれを見てクスクスと笑う。真っ赤だの可愛いだのとヤジが飛んできて、シエラは顔だけではなく頭にも血が上ったが、ぐっと堪えて、バタバタと裏に入っていった。
靖真の何気ない一言が、シエラにとっては一つ一つ大きなことだった。火照る頬に両手を当て、早く冷めろと強く念じる。ドキドキと高鳴る胸の鼓動が、嫌でもシエラに気持ちを意識させた。
靖兄、靖兄と、その広い背中を追いかけていただけのはずだった。その気持ちが家族へのものから変わってしまったのはいつからだっただろう。
「靖兄の馬鹿」
シエラは裏手で壁に寄りかかり、膝を抱えて呟いた。
他人が愛だの恋だのと言うような年になっても、シエラはそれが理解できなかった。しかし、それもこれも全て近くに居すぎて気付かなかっただけ。六年前にそれを自覚させたのは、靖真自身だった。
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