独り占め

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「ただいま」  二階に向かう階段がある場所は玄関の目の前だ。玄関扉を勢いよく開いた人物と思いきり目が合ってしまった。予想外の展開に一瞬固まってしまった僕を見たそいつは、満面の笑みを浮かべて近づいてくる。 「和臣ただいま」 「……」  八つ年上の兄であるこの男が僕はあまり好きではない。兄というだけで僕の行動を戒めたり、苦言を呈したり、やたらと構ってきたり、それが正直不快だった。いつも賑やかしくて、周りに集まる人間たちもそれ同等に騒がしい者ばかりだ。それがますます嫌だ。 「おお、明博の弟か。似てねぇ、すっげぇ可愛いじゃん」 「ちっちゃいくせにイケメン感あるな。将来有望な顔」 「なんだよ、それじゃ俺が残念な顔をしているみたいじゃないか」  どうでもいいことを話しながら、突然現れた三人はうるさいくらいの声で話し笑い出す。僕はその隙に自室に籠もってしまおうと急いで階段を駆け上がった。 「おい、和臣?」  駆け出した僕に明博は慌てた声を上げる。その傍ではまたうるさい声を上げて、ほかの奴らが笑い出した。 「兄貴、嫌われてるんじゃないか?」 「小さいけどいくつ?」 「今年小五になった」 「離れてんな、でももっと小さいかと思った」  好き放題なことを言う奴らにムッと眉をひそめて僕は自室に飛び込んだ。小さいという単語は僕の中の地雷だ。僕の身長は平均的なものより低く、百三十センチ程度しかない。なかなか身長が伸びなく、実年齢より幼く見られることが多い。  ふっと息を吐きだして、僕は夕陽が射し込む静かな部屋の中でしゃがみ込んだ。今日は夜になってあいつらが帰るまでこの部屋を出ない、そう心に決めると暇潰しに僕は、一昨日の晩に鷹くんが忘れていった数学の教科書を眺めた。  二日も取りに来ないなんて余程必要ないのか、どこにやったかわからなくて誰かに借りるかしているのだろう。
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