にたもの兄弟

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 ああ、母さんならそこにいるよ、兄さん。人の奥さんを奪って、出て行った兄さんを案じながら、母さんは亡くなった。あの子は大丈夫かしら、風邪をひいたり、おなかをこわしたりしていないかしら。熱を出すと、いつも辛そうに真っ赤な顔をして「母さん、母さん」と私を呼ぶんだって、懐かしそうに言っていた。   母さんだって、完治できないほど、病におかされていた。手術だって、体力がなくては受けることもできない。痛みをおさえて、苦しみを忘れさせる薬を少しずつ、栄養の点滴にまぜて投与するしかなかった。  ときどき、母さんは僕を兄さんと間違えていた。薬は記憶や思考を曖昧にさせて、強い眠気をもたらしてしまう。だから母さんは、いちばん会いたかった兄さんの夢を、目をあけながら見ていたんだ。白昼夢というやつさ。
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