にたもの兄弟

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 ある日、お医者さんに告げられた。  心の準備をして、本人が希望することをなるべく叶えてやり、静かに「そのとき」を迎えさせてほしいと。  僕は静かに受け入れて、母さんにできること、してやれることはなんだろうかと考えた。  考えながら、病院の帰り道を歩いていてふと、思いついた。  母さんは「兄さんがあんなふうになったし、あんたでもいいから、かわいいお嫁さんをつれてきてくれたら、どんなに嬉しいか」と、弱々しい声でつぶやいていた。  僕のちょうど右隣には、できたばかりのセレクトショップが有り、まだ真新しいマネキンが、薄桃色のツイードでできたワンピースに、真っ白で襟元にふかふかとしたファーがついているコートを羽織った姿で、ディスプレイされていた。
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