にたもの兄弟

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 許しを得て、僕はマネキンと母さんの前で結婚を誓った。  白いコートをウエディングドレス、白い帽子はヴェールだと信じ込んで、母さんは手拍子までして喜んだ。  初めて口づけをかわした相手がマネキンだなんて、笑ってしまうけれど、母さんが喜んでくれるならいいかな、と僕は思った。  おもちゃの指輪を交換したときなんか、マネキンの手を見て「真っ白できれいな手だこと、若い頃を思い出すわ」なんて、うっとりしていた。  ビスやシリコンの関節に、つるりとしたプラスチックの表面を、母さんは若い女の肌だと信じ込んでいたんだ。  僕とマネキンを見送り、その夜遅く、母さんは亡くなった。  きっと、望みが目の前で叶って嬉しくて、思い残すことがなくなったんだと思うよ。
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