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不殺主義者
およそ一キロメートル先に標的の家がある。僕らが東側で、朝日を背にできる位置だ。
建物の最上階で腹這いになっている僕の左腕は折り畳まれ、右手はM107のグリップを握っていた。
M107は.50口径の対物ライフルだ。そして僕は空力的に改良が施された特殊弾を使用している。表向きの名前は対物ライフルではあるけれど、遠距離の対人狙撃にも適している。
特殊な任務だった。CIAが長年かけて追っていたテログループの首謀者を、遂に抹殺しようというのだ。
強襲作戦は大掛かりで目立つから、狙撃手の僕と相棒の観測手だけが現場に投入された。心細いけれど、バックアップは手厚いし頼りにできる。
照準器の内側に何度も標的は入ってきた。だけど僕は丸々三日も待たされて、まだ撃てていない。本国の方で問題があったようで、ちょっと協議中らしい。
そういうことは僕らが現地入りする前にして欲しいが、政治家なんてどうせそんなものだ。腹は立つけれど、僕にはどうしようもなかった。
観測手のイラつきもそれに起因している。元から彼は堪え性がなくて待つのは苦手だけれど、今日は虫の居所が特に悪いらしい。
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