不殺主義者

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 長居は露見に繋がるから、観測手の反応はもっともだ。まして敵地のど真ん中にいるのだから、そんなところで平静を保てというのが無理だろう。 「なあ、弾はどこにぶち込む気だ?」  観測手が聞いた。 「胸だ」  頭は確かに致命的だ。しかしそれは命中したらの話で、実戦で狙うには適当ではない。ともすれば狙いは胸の真ん中が妥当だ。.50口径の威力なら、胴体のどこかに命中しただけでそれなりに致命傷を与えられる。 「タマにぶち込んでやれよ」 「そんな話もあったな。だけど、この任務は抹殺であって……」 「そういう話じゃないんだ。なあ。あんな奴でも家庭を育めるっておかしいだろ」  観察を続けているうちに、僕らは標的が妻帯者で子どももいると知った。窓越しに、彼の生活は垣間見えた。子どもはまだ幼く、五歳前後みたいだ。  僕も観測手も独身だ。正しくは、僕は未婚だが観測手は離婚をした。仕事を考えると当然とも言える結果だが、観測手は調停で悪い条件を飲まされた。  長い待機が続いて、会話もなくなった。僕はそんな雑談が苦手だから、むしろ有り難かった。  標的はどうも家庭的みたいだった。妻との生活も順調そうで、子どもは笑顔いっぱいに育っている。  とても彼があんなテロを引き起こしたとは思えなかった。人は見かけによらないとは言うけれど、今日ほどそれをひしひしと感じた日もない。     
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