0人が本棚に入れています
本棚に追加
長居は露見に繋がるから、観測手の反応はもっともだ。まして敵地のど真ん中にいるのだから、そんなところで平静を保てというのが無理だろう。
「なあ、弾はどこにぶち込む気だ?」
観測手が聞いた。
「胸だ」
頭は確かに致命的だ。しかしそれは命中したらの話で、実戦で狙うには適当ではない。ともすれば狙いは胸の真ん中が妥当だ。.50口径の威力なら、胴体のどこかに命中しただけでそれなりに致命傷を与えられる。
「タマにぶち込んでやれよ」
「そんな話もあったな。だけど、この任務は抹殺であって……」
「そういう話じゃないんだ。なあ。あんな奴でも家庭を育めるっておかしいだろ」
観察を続けているうちに、僕らは標的が妻帯者で子どももいると知った。窓越しに、彼の生活は垣間見えた。子どもはまだ幼く、五歳前後みたいだ。
僕も観測手も独身だ。正しくは、僕は未婚だが観測手は離婚をした。仕事を考えると当然とも言える結果だが、観測手は調停で悪い条件を飲まされた。
長い待機が続いて、会話もなくなった。僕はそんな雑談が苦手だから、むしろ有り難かった。
標的はどうも家庭的みたいだった。妻との生活も順調そうで、子どもは笑顔いっぱいに育っている。
とても彼があんなテロを引き起こしたとは思えなかった。人は見かけによらないとは言うけれど、今日ほどそれをひしひしと感じた日もない。
最初のコメントを投稿しよう!