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ふと、無線機が喧しくなった。観測手がそれを受けた。交信が終わった後の観測手はどうも上機嫌だった。
「発砲許可が出たぞ」
つまり次に彼が射線に入ってきたら、僕は引き金を絞らないといけない。仕事だから仕方ないとは思うけれど、今や僕はあってはならない抵抗感を覚えていた。
その日の夕暮れになってチャンスが訪れた。西日になるからリスキーではあるものの、窓に標的が収る絶好のチャンスだった。
僕はスコープのカバーを開いて覗き込んだ。観測手の言った通り、狙撃にはいいタイミングだった。
だけど問題があって、僕は彼が子どもと遊んでいる姿を見た。じゃれあってるみたいで、今撃ったら子どもも貫くことになる。対物ライフルの威力は成人男性の胴体では到底止められない。
「……子どもがいる」
「構いやしねえよ。撃てよ」
「標的はあの男だけだ」
「バカか。どうせテロリストの子どもだ」
反論して僕が撃たないでいる間に、彼とその子どもは射線を外れた。僕はむしろ安心してしまった。
「お前、変な所で道徳心あるよな」
「そうだ」
スコープのカバーを閉じて、再び沈黙が始まった。それからしばらく、ターゲットは姿を現わさなかった。そわそわして定期的に悪態を垂れる観測手を何度も諫めながら待った。
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