0人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし、今度はなかなか姿を見せなかった。様子が分からないと、その水面下で何かが起きているかどうかが不安になる。そろそろ、観測手の精神もギリギリになってきた。
僕は待つことが苦じゃないどころか好きだった。待っている間は能動的に何かをしなくても存在を認められるからだ。待っていない間は、人は何かしなくてはならない。
夜になって、そのまま動きもないまま僕らの背中側から日が昇りだした。この地域の朝はとても気持ち良いものだ。僕らも排泄物が傍らになくて睡眠を良く取れていたら、さぞや良い気分だっただろう。
突然ブラインドが開いて男が姿を現わした。朝日を浴びに来たらしかった。見える範囲に子どももいないし、殺すなら今がチャンスだと思った。
観測手も喜んだ。帰っても離婚の事実を思い出して鬱々とするだけなのに、今は帰国を心待ちにしているらしい。ここでずっと待っていられるなら、彼の婚姻関係の問題は解決するだろう。
銃のセーフティを解除して、僕は指をガードからトリガーに移した。後は数十グラムの加重で撃針が前に飛び出し、銃弾が空を舞う。慣れているし簡単なことだ。
何となく、僕は彼と目が合った気がした。朝日を一身に浴びる彼の姿は、僕は無宗教者だけど神々しく思えた。死期を予期してしまっているみたいだった。
「おい、どうした。まさかここで情が湧いたとかねえよな」
「かもな」
最初のコメントを投稿しよう!