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僕は標的を長らく観察し続けてしまった。普通に任務が遂行されていたなら、知り得ない情報も知ってしまった。残される子どもは可哀想だった。
「バカ言え! もう何百も殺してるだろ!」
「それはそうだが」
「ああっ、クソ、この任務は散々だ。撃たないなら俺に撃たせろ」
「お前には無理だ」
「てめえ、この……な、待て! 撃つな!」
急に控えめな声になった。だけど緊急なことのようで語気は荒い。僕も反射的に引き金から指を離した。
無線機から、僅かに声が漏れ出ている。僕には聞き取れなかった。
しばらくして観測手は深い深い溜息を吐いた。怒りを通り過ぎて呆れてしまったらしい。
「空爆するらしい。残念だったな」
観測手はそう言ったけれど、僕はそう思わなかった。スコープの中で標的が家の奥に消えるのが見えた。射線から離れてしまった。
空爆は強力かつ精密だ。狙撃なんかよりも、下手したら特定の誰かを抹殺できるだろう。しかも今や無人機の時代なのだし、手間もかからない。
「さっさと撃たないからそうなるんだ。空爆効果評価はお前がやれ」
起き上がった観測手は後片付けを始めた。僕はスコープから目を離して、張り詰めた神経をほぐすみたいに体を伸ばした。長らく同じ体勢だったから、ひどく凝り固まっていた。
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