敵は本能寺にいなかった

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「いよいよこの時が来ましたな!」  斎藤利光が勢い込んで、光秀に突撃を進言しに行ったときだ。 「く、内蔵助っ、あれを見ろ!」 (な、なんだ)  四条西洞院本能寺である。誰もが眠るこの時間、夜の闇に沈んで久しいこの一角のはずなのに、本能寺に赤々と照明が灯っていたのだ。花火もやっているのか火薬の音も聞こえる。近所迷惑だ。いやそれ以上に。寺の中は異常ににぎやかな人の気配で満ちていた。 「ど、どう言うことっ!?」  しかも、正門は全開であった。さらに入口には仮設テントの受付が用意され、信長が雇った若くて美人の受付嬢が、にこやかにパーティ客を案内している。 「これはまさか、何かの罠か…」  今まで誰も考えたことのない発想で、敵味方問わず人の度肝を抜いてきた信長だ。これももしかしたら恐るべき罠か策略か。なんにせよ、このまま普通に攻め込んだら、絶対何かあるに決まっている。 「どうする」  利光も光秀も判断がつかず、顔を見合わせた。そのときだ。 「おっ、おおおおっ、光秀来たか!」 「えっ、えええっ!?」  信長本人が現れたので思わず、光秀は目を見張った。シェフの格好をしているので別人かと思ったがやはり、あれはまさしく信長だ。 「遅いではないかっ!このわしを待たせるとは心憎いやつだでや!ほれほれまず、中へ入れ!ぜひともおみゃあに食わせたいものがあるでや!」 「かっ、完敗でござるっ」  それを見て、利光はがっくりと膝を突いた。 「信長公が何を企んでいるのか判らぬが口惜しいが、こ、これは謀反は筒抜けであったということでござる。殿、ここは内蔵助が命に代えても足留めしますゆえ、早くお逃げを」 「い、いやそのそんなこと言われても内蔵助困るよ…」  と、メンタルの弱い光秀がまごついていると、信長がその肩をぐっと抱いてくる。 「何をぐずぐずとしておるか。ピザが冷めるでや。大勢で来たゆえ、食いはぐれたものは後で何か遣わすで。まずおみゃあが来い!」 「ひっ、ひい、助けて内蔵助」  光秀はそのまま、信長に中へ連れ込まれた。
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