189人が本棚に入れています
本棚に追加
女子ロッカーから聞こえてくる声、1つは俺よりも7つ年上の佐伯さん、7つも上には見えない程に小柄で可愛らしいのだが仕事モードになると結構キツイ人。そしてもう1つは、俺の同期である井上絵奈の声だ。同期入社ではあるものの、井上とはただそれだけでほとんど仕事上の付き合いしかない。何人かいたら一緒に飲みに行ったりしそうな所だけれど、同期で飲みに行く=二人で飲みに行くなので、栄さんなども含んだ会社の飲み会でしか飲んだこともない。
地下鉄の路線が同じだから、通勤が重なればちょっと話すけれど、その程度だ。
プライベートについて知っていることといえば、入社した頃は遠距離恋愛の彼氏がいたけれど、今はフリーっぽいということ程度。
ちょっとしたミスも気を悪くせずに笑顔で対応してくれるから、忙しそうな時の修正はつい井上に頼んでしまう。栄さんも多分そうなんだろうと察しが着いた。あの人、ケアレスミス多いからな。
俺がロッカールームのドアを開けたのと、その井上が女子ロッカールームのドアを開けたタイミングはほぼ同時。
「え、あ……前橋くん、お、おはよう」
「おはよう、井上」
挨拶をしつつも視線が気まずそうに俺の背後へと泳ぐ井上に、思わず笑いそうになる。
「居ないよ」
少し避けて男子ロッカーの中を見せると、井上は少し安堵した表情になった。そんな聞かれたら困るならあんな音量で話さなきゃいいのに。
最初のコメントを投稿しよう!