第一夜

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 女子ロッカーから聞こえてくる声、1つは俺よりも7つ年上の佐伯さん、7つも上には見えない程に小柄で可愛らしいのだが仕事モードになると結構キツイ人。そしてもう1つは、俺の同期である井上絵奈の声だ。同期入社ではあるものの、井上とはただそれだけでほとんど仕事上の付き合いしかない。何人かいたら一緒に飲みに行ったりしそうな所だけれど、同期で飲みに行く=二人で飲みに行くなので、栄さんなども含んだ会社の飲み会でしか飲んだこともない。  地下鉄の路線が同じだから、通勤が重なればちょっと話すけれど、その程度だ。 プライベートについて知っていることといえば、入社した頃は遠距離恋愛の彼氏がいたけれど、今はフリーっぽいということ程度。  ちょっとしたミスも気を悪くせずに笑顔で対応してくれるから、忙しそうな時の修正はつい井上に頼んでしまう。栄さんも多分そうなんだろうと察しが着いた。あの人、ケアレスミス多いからな。  俺がロッカールームのドアを開けたのと、その井上が女子ロッカールームのドアを開けたタイミングはほぼ同時。 「え、あ……前橋くん、お、おはよう」 「おはよう、井上」  挨拶をしつつも視線が気まずそうに俺の背後へと泳ぐ井上に、思わず笑いそうになる。 「居ないよ」  少し避けて男子ロッカーの中を見せると、井上は少し安堵した表情になった。そんな聞かれたら困るならあんな音量で話さなきゃいいのに。
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