第三夜

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***  調理器具と調味料の場所さえ教えてしまえば、井上は慣れた様子で夕飯を作り始めた。  ……マジで井上が俺ん家で飯作ってくれてるよ。  部屋に井上がいて、しかも夕飯を作ってくれている。現実のはずなのに、全く現実味を感じられず、むしろ先週の様に酔った井上を部屋に連れてくる方がまだ現実味があるように感じられた。  リズミカルな包丁の音と一緒に、仕事中よりも少しルーズに結われたポニーテールが揺れる。  俺はと言うと、その揺れる髪の合間から見え隠れする白いうなじに噛みつきたい衝動に駆られながら、時折チラリと見える美味しそうな井上の首筋を眺めていた。  否応なく、先週井上の首筋に顔を埋めて、耳元で甘い吐息を感じたのを思い出す。……ダメだ。先週つまみ食いしたせいで、完全に欲求不満だ。  玉ねぎを切っていた井上が顔を上げてこちらを見る。 「ねぇ、前橋君。そんなずっと見られてるの落ち着かないんだけど」  だって井上が美味しそうだから。  言うわけに行かないそんな邪な本音は隠して「見てたいんだけど」と言ったけれど、結局「ベッドの上の洗濯物でも畳んでおいでよ!」と台所を追い出されて、渋々リビングに戻って部屋の片付けに手をつけた。  まぁ、ベッド使う気満々だから言われなくたって片付けるけどさ。
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