第三夜

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「前橋君。あの、さっきの話なんだけど……」  少し俯いて、躊躇いがちに言う井上はやっぱり耳まで紅くなっていて、妙に色っぽく見えた。 「私ね、会社の人と付き合うとか今まで考えたことなくて。なんか、会社の人がみんな付き合ってる人の事知ってるとか考えたら、恥ずかしいし。私、隠すのとかあんまり上手じゃなさそうだし、色々迷惑かけちゃいそうで心配なんだけど……、ええと、その……よろしく、お願いします」  ぺこりと頭を下げた井上の言葉を、その意味を確かめながらゆっくり反芻する。  なんか、ものすげー長かったけど、最後はよろしくって言ったよな? 「前橋……君?」  反応が遅れた俺を呼ぶ不安気な井上の声と、ようやく理解出来た井上の言葉の意味に、微かに笑みが漏れた。同時に、井上の腕を強く引いて、倒れ込んできたその身体を思い切り抱きしめた。  先週と同じ、甘いフローラルの香りがする柔らかい髪に頬を寄せる。  今週1週間、2人で居る時にどんだけ触りたかったと思ってんの? どれだけ抱きしめたいと思ったか分かってんの?  嬉しいのと同じくらい、安心していた。
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