2798人が本棚に入れています
本棚に追加
/999ページ
*『あんず林のどろぼう』
キンコーンカーンコーン……
休み時間終了のチャイムが鳴った。
…次は国語の授業だ!
最近の国語の授業が、私は楽しみで仕方ない。
「今日は〝あんず林のどろぼう〟のラストですよ!」
ヨコハシ先生の言葉で、私はすぐさま教科書を開く。
『あんず林のどろぼう』
小学校六年先の教科書に載っていた物語。
盗みを繰り返すどろぼうと捨てられた赤ちゃんの話だ。
いつものようにどろぼうは盗みを働いた後、あんず林に迷いこむ。
あんず林の中に捨てられていた小さな赤ちゃん。
赤ちゃんの側には一通の手紙が添えられていた。
『この子を育ててください』
どろぼうは「なんだ捨て子か」とその場を立ち去ろうとするが、
その赤ちゃんを何故か見捨てられなかった。
赤ちゃんはぱっちりとした目でどろぼうを見つめたから。
純真無垢な赤ちゃんを抱き上げたどろぼうは赤ちゃんに自分の持っていた牛乳をあげた。
すっかり夢中になって赤ちゃんをあやすどろぼう。
初めて、孤独な自分を必要としてくれて愛情を求めてくれた赤ちゃん。
どろぼうは、もうどろぼうではなくなっていた。
盗んだものはその場に全部捨てた。
涙が溢れて止まらなくなったどろぼうは、赤ちゃんを抱き締めてあんず林の中を歩き出した
―――――――――――――――――
ここで物語は終了する。
私はこの物語が好きでたまらない。
現実的な話ではないが、私はとても共感できた。
捨てられた赤ちゃん。
愛情を知らずに生きてきたどろぼう。
あんず林の甘酸っぱい光景と、愛情が重なりあう情景がとても切なくて泣けてくるのだ。
「はい、今日であんず林のお話は終わります。
どろぼうと赤ちゃんとこの先どうなるのでしょうね」
ヨコハシ先生の声にハッと物語の世界から教室に引き戻される。
最初のコメントを投稿しよう!