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アン
その美しい女は、バラの花のように華やかに微笑んで言った。
「あら、よろしいの?実はとてもおなかがすいていて倒れそうなの。本当にご迷惑でないんですか?」
「むしろ、大歓迎ですよ。わたしも実は腹ぺこで。」
もし、彼女がアンに似ていなければ、私はこんなことはするはずがない、自分の大胆さに少し躊躇しながら、彼女をテーブルにいざなった。若いころは、アンをこういう風にエスコートしたものだった。
「お嬢さん、こんな美しい人とご一緒できるなんて、それだけで私は満腹になりそうだ。」
「まあ、お上手。お嬢さんなんて、アンといいます。初めまして。」
「えっ、アン?昔そういう名のガールフレンドがいたっけな。私はリーアム。初めまして。」
「私もよ。ボーイフレンドにそういう名の人いたけれど........本当にリーアム?」
彼女はそう言って、私の顔を探るように見る大きなひとみが瞬いた。
食事は完ぺきだった。今までは味がわからなったのかと思うほど。
私は、恋人と会話するように、時を惜しんでいた。
彼女が言った。
「その方、アンというガールフレンドのこと思い出しているんでしょう?なんか私を見ていて、見ていないような。」
「それは失礼した。アンはあなたによく似ていたので。そう、彼女のことを考えていた。結婚する前の話だよ。」
「あら、奥様に悪いわね。」
「いや、妻はもう逝ってしまったんだ。」
「それは失礼しました。」
彼女は顔を少し伏せた。
「あなたを見たとき、彼女かと思ったよ。でも、アンならもういい年のはずだが。」
「私は、年のわりに若く見えると言われるのよ。実は年を取るのだけれど、見かけはあまり変わらないの。これでいい場合もあれば、悪い場合もあるわ。」
そして彼女は急に真顔になって言った。
「リーアム、ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
「何を謝っているんだい。私なんかと付き合うのはもうあきたのかね?」
「そうでなくて………リーアム、私、あなたが最初わからなかったのよ。ずいぶん経つわよね。私、そのアンよ。本当に。あなたとの思い出のこの街にちょっと寄ってみたの。あなたのことを思い出していたわ。この店も来たことあったわよね。」
彼女はすまなそうに、微笑んだ。
これは夢か、ファンタジーか?どちらでもいい。ひと時、この時間に身を任せようと思った。
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