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後悔
私は驚いて言った。
「本当にアンなのかい?昔の儘だから、まさか? 実はこの店は君の思い出を手繰りに、たまに寄るんだ。」
「そうね、ここで私たちよく一つのお皿を二人で分けて食べたのよね。」
「間違いないね。アン、髪を切ったんだね。若く見えて素敵だ。また会えてうれしい。昔と変わらず、本当にすごくきれいだ。」
「あなたは目が悪くなったのよ。それで会社を継いだのね。そして結婚したのね。お子さんは?」
「二人。いい息子たちだ。会社も父の望み通りに継いでうまくやった。もう年だよ。そろそろ会社を譲らなければ。」
彼女は、安堵したように、また爽やかに微笑んだ。
「よかったわ。すべてうまくいって。」
「そう、私は別の人生を生きた。君のいない人生を。」
「あなたの気持ちを考えると、すごくつらかったけれど、私は奥さんにならなくてよかったわね。」
アンを前にして、私の秘めていた思いが洪水のように吹きだした。
「でも、その人生は私の影の人生だった。妻には申し訳なかったが。私は君との人生を選ぶべきだった。君を追って、すべてを捨てるべきだった。この考えを今日まで封印してきたんだが、今も、あの時の自分の気持ちをありありと思いだせる。私には勇気がなかったんだ。私の決断は間違っていた。ほんとうに済まない。」
アンは落ち着いて言った。
「いいえ、これが、あなたが歩いた道こそがあなたの美しい人生よ。リーアム、あなたはいつも私の心の小箱に入ってるダイヤモンドなのよ。」
「若かりし、私がね。」
「ごめんなさい。でも今も、あの頃のあなたの純粋さをを感じるわよ。」
「そうだといいんだが。実は私は癌でね。数か月の命と言われてる。」
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