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ぷっ、と笑ってしまった。
彼女の父親に初めて会う態度としてどうかは別として、いかにもこの人らしいし、そういうところが好きなんだと思った。
もし、これで父が怒ったとしても、好きな人が、その人らしく振る舞っての結果ならそれでいいと思えてくると、緊張感が抜けて勝手に笑みが浮かんでくる。
「……話を戻させてもらいますが」
父が気を取り直したように、硬い声で言う。
「感謝はしておりますし、あれ以上涼子が家に居たなら、こんな明るい表情はしていなかったと思います。……ただ、まだ23の嫁入り前の娘のことなので、今の生活を続けるのは親として複雑なところもあります」
それは、と彼と同時に声が被った。
思わず顔を見合わせると
「いいよ。言えよ」
彼が譲る。
「あ、えっと……だから、そのことは彼も気にしてくれているし、……先のこともちゃんと考えてくれてます。来年、あたしの誕生日までに気持ちが変わらなかったら結婚しようって言ってくれてます」
父は微妙に眉を寄せて、彼はなぜか吹き出して笑った。
「……え?」
「なんで先に言っちまうかな」
「え。だって、先に言えって」
「じゃ、なくって。被ったから先言えよとは言ったけど、結論まで自分で言っちまうとは思わねぇだろ。……せっかく居るんだから俺の台詞取っとけ、っつの」
「あ」
彼はおかしそうに笑って、父は唇を結んで考え込んでいる。
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