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「……どうしてですか?」
「うまく言えねえけど……」
彼は眉をしかめる。
「オヤジさん。会ったのは初めてだけど、なんかえらい疲れた顔してたろ」
「……うん。だいぶ痩せてました」
「あれ見てたら、……なんつーか、今のオヤジさんが稼いだ金で飯食う気になれないというか。確かに、それは筋だけど、でも今日はいいから、お前がもらっとけ」
……そう言われてみれば、籍はそのままとはいっても別居したり、いろいろ家で起こってることが会社にばれたら社会的信用にも関わるし……父が望んだこととはいえ、今までの順調な人生からは外れることになる。
父の相手が病気で、その治療費なども面倒みてあげることになると……なんてことは、全然わたしは考えていなくて当たり前のように受け取っていた。
「……竜は、優しいですね」
「分かんねぇけど、なんとなく嫌だと思うモンは嫌なだけだ。お前は?腹減ってたら何か食べるか」
「減ってますけど……ここで食べるより、簡単でも家に帰って二人で食べたいです」
彼はまじまじとわたしの顔を見て、それから笑って頭を撫でた。
くしゃ、というより、ぐしゃぐしゃと頭を掻き回すみたいに。
「ちょっ……やだ。何すんですか」
「いいだろ。もう用は終わったんだから。じゃ、帰るぞ」
ぽんぽんと頭に手を置いて、彼は席を立った。
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