3130人が本棚に入れています
本棚に追加
/294ページ
「いいなあ。素直で」
鹿野さんは笑った。
「面白いね」
「どういうところが？」
「余裕ありそうに見せて、全然余裕ないところが」
確かに。……余裕ないんだと思ってたら、この前みたいにかわされたり。
落ち着いてるように見えて、そうじゃなかったり。
「……あたしも、そこはまだ分からないかも。表面見てるだけだと」
「でも、それはおじさんでも、俺らみたいな同年代でも、条件同じじゃない？若かったら全部感情剥き出しってわけでもないでしょ」
「鹿野さんは特にそう見えますが」
「そう、って？」
「何考えてるんだか、さっぱりわかりません」
「俺は、これが素だよ」
「彼女さんともそんな感じだったんですか？」
一瞬、その時を思い返すような間のあと、彼は言った。
「いや。全然違ったと思う。どういう風に違うかは分からないけど、……今は、嫌なことあってひねくれた分、複雑にはなってるけど、俺涼子ちゃんには嘘は言ってないしカッコつけたりもしてないと思う。っていうのは、まだ付き合ってないから出来るのかもしれない。自分の彼女になっちゃったら、また関係が違うから」
「……そんなものですか」
「特に、男は勘違いして舞い上がったり、束縛するようになったり、付き合う前とだいぶ違う奴も居るだろうね。涼子ちゃんのおじさんは、そんなこともなさそうけど」
それを聞いていると、あの人は嘘ついたり、わたしが嫌なことをしたりはしないけど、時々カッコつけて無理するところはあるなぁ、と思った。
最初のコメントを投稿しよう！