【9】

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「それじゃ、ありがとうございました」  今現在のわたしが帰る場所。竜のアパートの最寄り駅に着く手前で電車が減速を始めた頃、わたしがそう言うと隣で吊革に掴まった鹿野さんは微笑んだ。 「どういたしまして。一緒に帰れて楽しかったよ」  自分も同じ路線だからと言って、ここまでついてきてくれたけど、本当かどうかは怪しい。  けど、本人がそう言うなら嘘だと言う訳にもいかないし、この前のことを持ち出されてしまうと、やっぱり誰か居てくれたら安心というのはあった。  窓の外にホームが見えると鹿野さんは言った。 「じゃ、彼によろしく。迎え来てくれるんでしょ」 「はい。それじゃお疲れ様でした」  ドアに向かうと、彼は屈託ない笑みを見せて手を振った。 「またね」   「おう。お疲れ」 「ありがとうございます。雨も降ってるのに」 「だから余計気になるだろーが。いいんだよ。家で一人で待ってたって暇だから」  傘を片手に、竜は笑ってわたしの頭に手を置いた。  その体からはやっぱり煙草の匂いはしなくて、一人の時でもちゃんと我慢してくれてるんだと思うと、嬉しい反面で、本当は辛いんじゃないかと心配にもなった。
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